第1話:これでも経営理念と言えますか?
農業経営者を対象にした経営セミナーの講演が終わった後、受講者の一人から質問を受けました。講義を熱心に受講していた若い女性経営者でした。「先生がおっしゃるように、うちでも『経営理念』を掲げたいと思いますので、引き続きご指導ください。」ということだった。メールのやり取りを何回かした数ヶ月後、「あれこれ何度も検討した結果、主人がこれを経営理念にしたいと言っているのですが、これでも経営理念と言えますか?」と、朱書きしてあったのが、「明日やろうは馬鹿野郎!」という言葉だった。
私はすぐさま「はい、立派な経営理念です!素晴らしい言葉です。」と返信を書いた。彼女の家は牛を200頭肥育している畜産農家だった。パートやアルバイトの人たちに「相手が生き物だから、今日やらなければならないことは、今日中に済ませましょう。」と言うより、この言葉の方が断然説得力がある。経営者にとっても、面倒な課題は先送りにしがちな習慣を諌める良い言葉である。
後日、この農家を訪れた時、事務所にこの言葉を大書した紙が貼ってあるのをすぐに見つけることができた。