第2話:姉と弟の関係
商工会議所からの要請で、ある建設会社の経営支援に赴きました。その会社は市内でも中堅クラスの規模で、決算書を見ても業績は良く、特に問題があるようには見えませんでした。社長は30代後半の若さで、会長である父親から1年ほど前に経営を譲られており、今回の経営支援要請はこの社長からの申し込みでした。
色々と話を聞いてみると、経営を任せたはずの会長が、様々な場面で社長の頭ごなしに従業員に、社長とは違った指示を出すので、社長の立場はなく、従業員も困惑しているということでした。このような問題は、まだ若い社長と元気な会長がいる企業によく見られる現象です。
解決方法は正攻法で行くほかありません。何回か通って会長とじっくり話し合いながら、社長の経営者としての優秀さと、会長の後継者育成がどれほど素晴らしかったかを讃えながら、命令系統の一元化などの組織の原則をやんわりと説きました。そして、社長の経営権の確立をお願いしました。
幸い会長は納得してくれて、私の目の前で社長に「もう従業員には口出しをしない、気になることがあれば、お前に話す!」と断言してくれました。一段落ついてホッとしたのも束の間、もう一つ重大な問題があることに気がつきました。
社長には3つ違いの姉がいて、その人が総務部長という肩書きで同じ会社で働いていました。ある日、たまたま私が居合わせた時に、総務部長が「太郎ちゃん、Aさんから電話よ!」と事務所全体に響くような大声を出したのです。「太郎」は社長の名前です。小さい時から一緒に過ごして、「太郎ちゃん、太郎ちゃん」と可愛がってきたのでしょう。30代後半の社長を姉の立場で呼んでいるのです。
このような家族のしがらみや家庭での序列が会社に持ち込まれている企業も時々見受けられます。家族が職場を家庭の延長のように振る舞うのは、家族だけの事業所なら許されるでしょうが、他人が一人でも入れば、それは社会の公器としてけじめをつけなければなりません。上記の企業も、社長もじつは会長よりも姉さんに頭を押さえつけられているのではないのか、という不安がよぎりました。