コンサルタントの仕事を始めたばかりの頃、先輩の診断士が様々なアドバイスをしてくれました。その中のひとつに「企業の経営支援の依頼が来たら、約束の30分ほど前にその企業を訪問しなさい。そして、経営者に会う前に会社の内外を観察し、問題点を見つけておきなさい。飲食店などは、そこで食事をしてみることだね。」というのがありました。そして経営者に会ってすぐにそれを伝えると経営者から感謝されて効果的に支援ができる、という内容でした。
なるほど、これは良いことを学んだと、早速それを実行して見ました。経営者に会う前に、事務所や工場、店舗や倉庫などをこっそりと観察して、気になる点や改善すべきことを見つけてメモを作りました。そして、経営者にお会いして、見つけ出した問題点を(多分、自分の観察眼を誇示しながら)指摘しました。
しかし、いくつかの会社で同じような方法を試みましたが、どうも様子がおかしいのです。先輩の診断士が言ったような、経営者から感謝されて効果的な支援ができる雰囲気ではないのです。問題点を指摘すると、経営者から「えぇ、判っているのですが・・・」という言葉が返ってくるのです。つまり、私が短時間に捉えた問題点なぞ、私が指摘するまでもなく、経営者はとうに熟知していたことだったのです。だから、感謝されるどころか意気消沈させてしまったり、傷に塩を塗り込むような痛い思いさえさせさせしまっていたのです。
こんな状態で、どんなに応援しますよと言っても、経営者が胸を開いてくれるはずがありません。それに気づいた私は、次からは全く逆のことをすることにしました。訪問するのは30分前と同じですが、今度は徹底的に「良いこと」を探して、それを開口一番伝えることにしたのです。
効果はてきめんでした。どんな些細なことでも、褒められたら口元が綻びるものです。照れて見たり、そんなことが「良いこと」になるのですか、と言いながらも晴れやかな顔になるのです。そうすると自然に心が開き、聞く耳を持ってもらえるのです。心を通じ合わせるための第一歩は、まず真剣に褒めることです。
実は、そうは言っても長所を見つけ出すのは、そう容易なことではありません。ついつい欠点や弱点の方に目が行ってしまいます。しかし、それらの欠点をかき分けて観察していると、次第に長所や強みが見えてくるものです。
社員を教育や訓練していく上においても同じことが言えます。教育や訓練は、指導する人とそれを受ける人の心が通じ合わなければ良い効果は得られません。そのためには、まず社員一人ひとりの長所や好ましい点を見つけ出し、それを真剣に伝えることからスタートすることが重要なことです。