兼好法師の『徒然草』の98段は、「高僧が語ったことを書き留めたもの」と言うテーマですが、その書き留めたものの最初の条は、『しやせまし、せずやあらましと思ふ事は、おほやうは、せぬはよきなり。』という文章です。現代文に直せば、「しようかなぁ、しないほうがいいかなぁ、と思い悩むようなことは、大方しないほうが良い」ということでしょう。
私は、10代後半にこの言葉に初めて触れた時、「そうかなぁ、迷った時は断然やるべきだろう!何事でもやってみなければ判らないじゃないか。」と、兼好の消極性を批判したものでした。気になる女の子に、恋文を出そうか出すまいかと迷った時、最終的には兼好の言葉を反面教師として、ポストの中に投げ込んだものです。
やがて社会に出て仕事をするようになっても、やっぱり兼好に同意はできませんでした。「初めに心に浮かんだ事柄は、そうすることが必要と感じたからこそ浮かんだのである。経営者は閃きを大事にすべきだ。」などと思ったからです。
そして、経営コンサルタントになったいま、多くの企業経営者にお会いして、「迷った時はどうしますか?」と尋ねると、やはり「やります!」と答える人が多い。中には「その時は先生、私の背中を押してください!」という人もいて、結局大多数の人が「やる」方を選択したいと考えています。
つまり、事業経営というものは、少々のリスクはあってもチャンスと思ったら積極的に打って出る、というものがベースにあるものなのでしょう。
もし兼好が当時会社を経営していたならば、多分こう書き残したに違いありません。
『しやせまし、せずやあらましと思ふ事は、おほやうは、するがよきなり。』と。