「人口減少社会を恐れるな」日本の将来は思ったほど悪くない(UCLA教授:ジャレド・ダイアモンド)
2008年をピークに、日本の人口が減少に転じて以来、多くの論説は日本の行く末を案じる「悲観論」であった。曰く、超高齢化社会になる、生産も消費も減退する、経済が縮小する、社会全体の士気が弱まる、三流国になってしまう、などなど。
一方、いやそんなことはない、適正な状態になって、むしろ国民の生活は豊かになる、というごく僅かではあるが「楽観論」もあった。しかし多勢に無勢、楽観論がトレンドの表面に出ることはなかった。
そんな時、文藝春秋の2月号の中で、久々に「楽観論」に出会うことができた。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のジャレド・ダイアモンドという教授の意見である。インタビュアの質問に答えている内容を要約すると次のようになる。
日本が抱えている問題は数多くあるが、人口減少は問題とは言えない。それはむしろアドバンテージである。資源の多くを外国に依存している日本は、資源を得るためにこれまで様々な困難に巻き込まれてきた。だから、人口減少によって必要とする資源が減って、持続可能な経済を実現しやすい状態になり、発展へのアドバンテージになるというわけである。
高齢化の進行に関しても、医療負担の問題や若者への負担が大きくなるという懸念があるが、日本の高齢者は、世界の他のどこの国の高齢者より健康であるから、世界のどこよりも若者への負担は少ない。問題は高齢化ではなく、定年退職というシステムである。素晴らしい人的資源である高齢者が、強制的に労働市場から退場させられてしまうのは悲劇である。働き続けられるオプションが必要である。
少子高齢化は世界的傾向だが、他の国は日本ほど心配していない。それは移民を受け入れているからである。移民が少なく、比較的同質な社会の日本が移民を受け入れた場合、多くの問題が起こるだろうが、それでも移民のメリットを考えるべきである。移民には若さと野心がある。そうした存在は国に活力をもたらす、イノベーションの源といっても良い。
ただ、移民について考える前に日本はやるべきことがある。それは女性についてである。
女性の社会進出については、北欧諸国がモデルになるだろう。国会議員の女性比率は40%を越えている。日本は10%、世界165位である。日本は経済的には先進国だが、女性に関しては後進国である。ひとたび女性に進出の解放ができれば、日本は質の高い労働力を難なく手に入れることができる。素晴らしい教育システムのおかげで日本人の女性は教育レベルが非常に高い。
仕事を望む高齢者や移民。女性を労働市場に迎え入れれば少子化、高齢化が進んでも、日本の経済力が大きく低下することはないはずである。
日本は今でも世界第3位の経済大国である。多くの国で、市民は自国について悲観的なものだ。日本は経済力を失い、世界で存在感を失いつつあると思っているのなら、それは欧米人の目に映る日本ではない。欧米人は日本が弱くなっているとは、全く思っていないのである。
脚注:ジャレド・ダイアモンド氏(82歳)
ピューリッツァー受賞『銃・病原菌・鉄』の著書にて一躍、名を世界に知らしめた。
ハーバード大学にて生理学を収めた後、進化生物学・人類生態学へと領域を広めた。
複数の言語を操り、学際的な研究で得た同時の視座による著作はいずれも世界的に高い評価を得
ている。最新刊は『危機と人類』。